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第7回 病因・病理学専攻 免疫学分野
免疫系を統合的に理解し疾患の克服をめざす
私たちは、免疫系を制御する分子機構を統合的に理解し、免疫系に関連するさまざまな病気の克服に貢献したいと考えています。特に、免疫と骨との関係に注目する「骨免疫学」の研究と、免疫系の機能異常によって引き起こされる自己免疫疾患の研究を中心に進めています。
免疫系を統合的に理解するために
私たちの体は、さまざまな病原微生物やがん細胞を排除するための「免疫系」を備えています。免疫系は、おおまかに自然免疫と獲得免疫に分けることができます。自然免疫は、マクロファージや好中球などが異物を貪食することで身体を守るしくみです。獲得免疫は、T細胞とB細胞が自分以外の成分(非自己)を認識することで、病原体や感染細胞を攻撃する仕組みです。自然免疫と獲得免疫は密接に関連して生体防御機能を発揮し、私たちが健康に生きていくことを可能にしています。しかし一方で、免疫系はしばしば、自己成分に対する反応(自己免疫)や、無害な外来成分に対する過剰な反応(アレルギー)といった病気を引き起こします。
免疫機能を担う血球系細胞はすべて、骨髄で作られる造血幹細胞に由来します。骨髄は特殊な微小環境によって造血幹細胞の維持や血球系細胞の生成を制御しています。同時に、血球系細胞はさまざまなサイトカインを介して骨芽細胞や破骨細胞に働きかけ、骨の形成を制御しています。すなわち、免疫系と骨は一体のシステムとして、生体防御と恒常性維持を支えています。
免疫系と骨の深い関係を探る
免疫系が自己の成分を異物として誤認してしまい、自己組織を攻撃した結果起こる病気を自己免疫疾患と言います。関節リウマチは、罹患率の高い(日本では約70万人)自己免疫疾患であり、身体の多くの関節で炎症が起こって腫れあがり、重篤な場合には関節の骨が破壊され、運動機能が著しく損なわれます。私たちは、関節リウマチの新規治療法開発に向けて、免疫系による骨破壊機構について研究を行っています。
免疫が骨を壊す仕組み
骨は、骨を作る骨芽細胞と、骨を溶かす破骨細胞とのバランスにより、たえず古い骨が新しい骨に入れ替わり、健康的な状態を保っています。しかしながら関節リウマチでは、関節に集積した活性化T細胞によって、破骨細胞分化を誘導するRANKLというタンパク質が増強するため、破骨細胞が異常に増えてしまい骨破壊が起きます。特にIL-17というサイトカインを放出する特殊なT細胞集団・Th17細胞が、RANKLを誘導し骨破壊を引き起こすT細胞であることが分かりました。Th17細胞による免疫反応を抑えることが、炎症だけでなく骨破壊を防ぐ効果的な治療になると考えられます。
免疫と骨の深い関係は他にも、脊椎性関節炎や歯周病、閉経後骨粗鬆症、骨折治癒などに深く関わっています。免疫と骨の関係に焦点を当てた学際領域「骨免疫学」を創成し発展に貢献してきました。
T細胞の選択と自己免疫疾患
免疫系による「自己」「非自己」の認識において、中心的な役割を担うのがT細胞です。T細胞は、造血幹細胞から発生したT前駆細胞が、胸腺の中で育つことによって作られます。胸腺は、主に胸腺上皮細胞からなる特殊な三次元網目構造をもち、T細胞の生成と教育を制御しています。
T細胞が様々な成分(抗原)を認識するための抗原受容体は、多くの種類の遺伝子断片がランダムに再編成されることで作られます。そのため、未熟なT細胞集団の中には、抗原に反応しない細胞や、自己抗原に反応してしまう細胞が一定の確率で含まれています。胸腺内では、皮質上皮細胞が抗原に反応する有用なT細胞を選抜し(正の選択)、髄質上皮細胞が自己反応性T細胞を除去しています(負の選択)。これによって、さまざまな外来成分に反応性をもち、自己成分には反応しないT細胞の集団(レパートリー)ができあがります。
髄質上皮細胞は、本来抹消組織だけに存在する自己抗原を発現しています。このような抗原に反応性をもつT細胞は負の選択によって排除され、抹消組織には出て行かないので、通常は自己に対する免疫応答は起こりません。私たちは、髄質上皮細胞において抹消組織抗原の発現を制御する新規の転写因子Fezf2を発見しました。Fezf2を欠損するマウスでは、自己反応性T細胞を抑えられないため、さまざまな臓器に自己免疫病態が見られます。
このようなT細胞の選択を制御する分子機構の解明は、自己免疫疾患の原因と病態を理解し、診断や治療の向上につながると考えています。