企画展アーカイブ
研究室紹介アーカイブ
第5回 生体物理医学専攻 生体情報学分野
化学を駆使して新しい医療を実現する
現在の生体情報学分野は、2010年よりスタートした新しい研究室です。医学部の研究室としてはめずらしく、化学合成設備を備えた研究室で、さまざまな高機能性化学物質を設計・開発して、新しい医療技術を創製する研究を行っています。
1つの大きなプロジェクトとして、がん部位を見分けて蛍光を発する「蛍光プローブ」と呼ばれる化学物質の開発を精力的に行っています。このような物質を用いることで、これまでは検出が難しかった微小がんであっても、手術中に容易に発見できるようになり、取り残しの軽減、がん手術精度の飛躍的な向上につながると考えています。
狙いの機能を持つオリジナル蛍光プローブを、化学を駆使して設計・開発する
蛍光色素と吸光色素の違い
色素は光を吸収して熱に帰る「吸光色素」と、違う色の光に変える「蛍光色素」があります。吸光色素が含まれている色鉛筆と、蛍光色素が含まれている蛍光ペンは、どちらもアンダーラインなどを引いて文書の一部を目立たせる目的で使います。では、どちらの方がより目立たせる効果が高いのでしょうか?
答えはイメージ通りかと思いますが、蛍光ペンの方がはるかに目立たせる効果は上で、原理的にその感度には1万〜10万倍の差があります。つまり、蛍光物質は非常に少ない量で、その存在を検出できます。
蛍光プローブの重要性
新規GGT活性検出蛍光プローブの開発による、in vivo迅速がん検出の実現
がん細胞の特徴として、特定の酵素活性が上昇していることが知られています。私たちは、いくつかのがん細胞で活性の上昇が報告されているγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)に着目し、その活性を生きた細胞で鋭敏に検出可能な蛍光プローブgGlu-HMRGを開発しました。gGlu-HMRGをがんが疑われる部位にスプレーすることで、1mm以下の微小がんであっても、1分程度の短い時間で、目視で可能なレベルの明るさで検出することに成功しました。
現在、この技術が実際の医療分野に適用可能かどうかを探るべく、多くの外科医と協同して、ヒト摘出がんサンプルでのプローブ機能の検証を行っています。将来的に、このプローブを噴霧して手術中にがんを光らせる日が訪れるのかもしれません。