東京大学医学部・医学部附属病院 健康と医学の博物館

企画展アーカイブ

第1回企画展
2011/01/20〜2011/06/30
第1回企画展
感染症への挑戦
第2回企画展 2011/09/15〜2012/02/19
第2回企画展
血管のひみつ
第3回企画展 2012/03/15〜2012/09/02
第3回企画展
見えないがんをみる

第4回企画展 2012/09/11〜2013/01/31
第4回企画展
わたしたちの脳

第5回企画展 2013/03/19〜2013/08/11
第5回企画展
健康長寿を支える身体の医学
─ 立つ・歩く ─
特別展 2013/10/10〜2014/02/11
特別展
史料で見る東大医学部・
附属病院の155年
第6回企画展 2014/03/13〜2014/08/10
第6回企画展
糖尿病の真実

第7回企画展 2014/09/11〜2015/03/01
第7回企画展
こどもの発達と成長

第8回企画展 2015/03/20〜2015/08/09
第8回企画展
死の真相を知る医学
─ 法医学 ─
第9回企画展 2015/09/10〜2016/02/21
第9回企画展
大腸のふしぎ

第10回企画展 2016/04/21〜2016/10/30
第10回企画展
見えざるウイルスの世界

第11回企画展 2016/11/25〜2017/08/20
第11回企画展
縁の下で身体を支える腎臓
─ 生体恒常性の不思議 ─

研究室紹介アーカイブ

第3回 公共健康医学専攻 社会予防疫学分野

栄養疫学「食習慣と健康の関連を疫学的に探る」

栄養疫学は『食べている物や食べ方と健康・病気との関連について疫学的手法を用いて明らかにし、予防や治療に役立てる学問』です。この研究室では主に栄養疫学研究の基本となる食事調査法(食事アセスメント法)の理論の構築やその方法(調査法)の開発を行っています。また、これらを用いて食事・食習慣と数多くの健康課題との関連を疫学的に調べています。

『科学的根拠に基づく栄養学(Evidence-Based Nutrition: EBN)』という考え方があります。科学性の高い栄養学研究の成果に基づいて信頼できる食べ物・健康情報を使うことです。栄養疫学はEBNの確立と実践に中心的な役割を果たす学問です。世の中のニーズの高さにもかかわらず、この分野の研究と教育を行なっている研究室は国内では極めて乏しいのが現状です。そのために、研究成果の発信とともに、海外の研究成果を国内に伝え、その有効活用を提言する上でも、この研究室は大切な役割を演じています。

日本における栄養疫学研究と栄養指導のためのツール

どのようにして食習慣を調べるか?

食べ物に入っている栄養素の量を調べる科学とふだん食べている栄養素の量を調べる科学は異なります。前者では食品の化学分析を行います。後者ではその結果も用いますが、加えて、その食品や料理をどのくらいの頻度でどのくらい食べているか調理法も含めて調べなければなりません。これを『食事アセスメント』と呼びます。この研究室では、食習慣を可能な限り正確に調べる方法として『自記式食事歴法質問票(DHQ)』と『簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)』を開発してきました。DHQは回答に45分程度かかりますが、100種類を超える栄養素の習慣的な摂取量をかなり正確に推定できます。BDHQはDHQの簡易型として開発され、15分で回答でき、ほぼ同じ種類の栄養素の摂取量の推定が可能です。

食事アセスメント方法の開発

肥満を招く(防ぐ)食べ方

肥満を招く(防ぐ)食習慣は何でしょうか?

数多くの候補物質(栄養素や微量物質)が報告されていますが、最も関連が深いのは物質ではなく、その人の無意識な食事の速さのようです。『速食い』の人は『遅食い』の人よりも、中年男性で9kg、若い女性で6kg程度体重が重いことがわかりました(身長にはほとんど差がありませんでした)。単に速く食べているだけでなく、食物繊維摂取量が少ないのも『速食い』の人たちの特徴です。他の栄養素摂取量には差は認められませんでした。つまり、食物繊維が多い食べ物をゆっくりと食べることが肥満予防にはもっとも効果がありそうです。なお、食物繊維が多い食べ物の代表は野菜や果物、精製度の低い穀類、納豆などの豆類などです。(一部、名古屋大学との共同研究)

肥満を招く(防ぐ)食べ方

体型が栄養素摂取量の認識のずれに与える影響(過小・過大申告)

『太めの人は食べているものを実際の量よりも少なめに認識している(細めの人では逆)らしい』、これが事実か否かを調べるために、若い女性を対象にDHQを使ってナトリウム、カリウム、タンパク質の摂取量を調べました(これを申告摂取量とします)。これらの栄養素は8割くらいが尿に排泄されるので、排泄量÷0.8で摂取量を客観的に推定することができます。そこで、同時に1日間の尿を全部集めて排泄量を測りました。これを仮の真の摂取量とします。そして、ひとりずつ[申告摂取量/仮の真の摂取量]を計算したところ、1.0を中心として、肥満度(BMI)とこの比がほぼ直線的に反比例しました。また、この過小申告の程度は若い人のほうがやや強いようです。

体型が栄養素摂取量の認識のずれに与える影響(過小・過大申告)

食事パターンと健康

人はひとつの食物だけを食べて生きているわけではありません。

そこで、DHQを用いて中高年女性の食習慣(食品摂取量)を調べ、食事パターン解析という手法で食べ方を分類したところ、『野菜・魚(健康食)型』『伝統的日本食型』『欧米型』『飲み物型』の4つの型に分かれました。そして、非利き腕の骨密度との関連を調べたところ、『野菜・魚(健康食)型』の要素が強い食習慣をもつ人ほど骨密度が高いことがわかりました。他の研究では、『欧米型』と『伝統的日本食型』が肥満を招く方向に、『野菜・魚(健康食)型』が予防する方向に働く可能性が示されています。便秘の予防には『伝統的日本食型』がよいようです。このように、防ぎたい病気によって望ましい食事パターンは少しずつ異なるようです。(一部、自治医科大学との共同研究)

食事パターンと健康

食習慣とうつ

うつ病の増加が大きな問題になっています。食べ物でうつ病を少しでも防ぐことができたらと考え、基礎実験や動物実験がたくさん行われ、葉酸という水溶性ビタミンと魚類に由来するn-3系脂肪酸(EPAやDHAなど)が有力候補として上がっています。そこで、それらの習慣的な摂取量とうつ傾向との関連を成人と中学生で調べました。葉酸摂取量とうつ傾向とのあいだに負の関連が認められ、わずかですが、男子中学生では魚類由来n-3系脂肪酸とも同様の関連が認められました。まだ確定的なことはいえませんが、人のうつ病に対してもこの2つの栄養素が予防的に働くのかもしれません。(福岡大学・国立国際医療研究センターとの共同研究)

食習慣とうつ

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