分子細胞生物学専攻 神経細胞生物学分野

脳のはたらきの基盤となるシナプスの研究

私たちの脳は膨大な数の神経細胞から成り立っています。神経細胞は「シナプス」と呼ばれる接着構造でつながっており、神経細胞どうしの情報伝達はシナプスを介して行われます。

シナプスには脳が正しく働くうえで重要となる2つの性質があります。1つは「急速に変化する」性質、もう1つは「長期間安定して存在する」性質です。たとえば、私たちが外界の情報に応じて学習し行動を変える場合、シナプスの伝達機能が「変化」し神経ネットワークが修正される必要があります。また、学習した行動を持続的に維持するためには変化したシナプス機能がその状態で「安定」する必要があります。

このように、シナプスは脳機能の根幹を支える重要な構造であり、いくつかの精神疾患ではシナプス機能に障害が見られることもわかっています。

神経細胞生物学教室では顕微鏡イメージング技術を主要な方法として、シナプスのさまざまな性質とそれを支える分子的なメカニズムを明らかにすることを目指して研究を行っています。

蛍光タンパク質を使った分子イメージングでシナプスを見る

顕微鏡でシナプスを観察するために利用しているのが、緑色蛍光タンパク質(GFP)をはじめとする蛍光タンパク質です。シナプスを構成するタンパク質に蛍光タンパク質を融合させた分子を神経細胞に発現すると、この分子がシナプスに組み込まれ、1つ1つのシナプスを蛍光顕微鏡で見ることが可能になります。

シナプス後部タンパク質と緑色蛍光タンパク質(GFP) シナプス後部タンパク質とGFPの融合タンパク質を発現させた神経細胞

神経細胞は通常多数の神経細胞から情報を受け取ります。そのため、1つの神経細胞は何千個ものシナプスを持つことになります。個々のシナプスの動態を調べるには、顕微鏡イメージング技術で個別のシナプスを観察することが非常に有効な方法となります。

イメージング技術でわかってきたシナプスの性質

神経細胞を培養すると成熟するにしたがってシナプスの数は増え、神経回路が形成されていきます。この過程で個別のシナプスを観察すると、その数は単純に増加するのではなく、1日で全体の20%ものシナプスが消失し、さらにそれを上回る数のシナプスが現れることで全体の数が増加していました。また、シナプスが現れる様子を詳しく観察すると、30分から1時間という速さで1つのシナプスが作られることもわかりました。

顕微鏡イメージングを用いて個々のシナプスを観察することで、神経細胞は従来考えられていたよりもはるかにダイナミックな過程を経て成熟していることが明らかになりました。

形成と消失を繰り返しながら増加するシナプス 急速に形成されるシナプス

生きた動物のシナプスを観察する in vivo イメージング

培養した神経細胞で観察されたシナプスのダイナミックな性質は、生きている動物でも実際に見られるのでしょうか?

近年のイメージング技術の進歩により、2光子励起顕微鏡(にこうしれいきけんびきょう)という特殊な顕微鏡を使うことで、生きたマウスの脳内を観察することが可能になりました。この顕微鏡を使い発達中のマウスの脳内を観察すると、培養した神経細胞と同じように20%ほどのシナプスが1日で消失し、それを上回る数の新しいシナプスが形成されて全体の数が増えることがわかりました。一方で、大人まで成長したマウスでは形成、消失するシナプスの数は大きく減少することもわかりました。

2光子励起顕微鏡 生体内イメージングによる生きたマウス脳内のシナプス動態

このように生体内の観察を行うことで発達段階に応じたシナプス動態の特徴も明らかになりつつあります。

アレイトモグラフィーによる高解像度シナプス観察

シナプスは、1μm(マイクロメートル)以下の微細な構造物のため、シナプス分子がどのように配置されているのかを詳細に知るには、電子顕微鏡を利用する必要があります。一方、電子顕微鏡で得られる画像はモノクロであり、また観察できる範囲が狭いことから、広範囲にわたる神経細胞どうしの結合の様子を知ることは困難です。

最近開発されたアレイトモグラフィー法は、電子顕微鏡用の超薄切片作成機で作成された試料を光学顕微鏡で観察することで両者の欠点を補い合い、高解像度のシナプス観察を可能にします。

こうした新しい技術を使い、神経細胞の結合様式を調べることで、神経回路の新たな特徴が解明されることが期待されます。

アレイトモグラフィー
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